memo


2019.07.01 角兵衛獅子

合唱作品『獅子の子幻想』(詩:蓬莱泰三/曲:鈴木輝昭)をより深く考えるための参考用として、角兵衛獅子に関するいくつかの資料を出典を明記の上、以下に並示します。
なお、『獅子の子幻想』(音楽之友社)の楽譜冒頭にて蓬莱氏は、「『獅子の子たち』の悲惨さを、表現としていくぶんでも和らげたい」という想いから、この作品を、「史実と虚構のはざま」で右往左往した結果としてのファンタジー(幻想)であり、整合性が欠けている点があるかもしれないことを言及しています。ついては、以下はそのファンタジーの生まれる土台となった角兵衛獅子の史実にまつわるものです。
 

『江戸職人歌合』より(石原正明著)より
 
 
「新潟市指定無形民俗文化財 越後月潟 角兵衛獅子の由来」
(新潟市南区産業振興課、角兵衛獅子保存会)
https://www.city.niigata.lg.jp/event/shi/event_minami/kakube.files/kakubeijisi.pdf
※「角兵衛獅子の舞」解説中に、「かにの横ばい」「青海波」「水車」「獅子の子落とし」「風車」の写真有
 
「越後獅子と角兵衛獅子」(©2018 新潟市南区観光協会、月潟を元気にする会)
http://www.shironekankou.jp/shishi/index.html
※角兵衛獅子の地域ごとの異称や巡業の形態、順路有
 
Facebook 角兵衛獅子保存会
https://www.facebook.com/kakube/
※現在の子どもたちの稽古風景有
 
you tube 角兵衛獅子の舞
https://youtu.be/cL0-MFD0aTM
※7分25秒~「獅子に牡丹か 牡丹に唐獅子」
 
『新潟県史 通史編7 近代二』「序章 近代と新潟県」(1988年、新潟県)
「[…]『天明以来の大洪水』といわれた明治二十九・三十年の信濃川・阿賀野川の一斉破堤が、その後の県や市町村財政に与えた影響は大きかった。この大水害に対する国の対応は冷たく、国庫補助金も県の申請額をはるかに下回った。[…]さらに、雪とのたたかいが新潟県民の生活にどれほど大きな影を落としているかは、想像を超えるものがあった。とくに、豪雪地の魚沼地方では、十一月下旬の初雪から翌四月までの五か月間は雪に閉じ込められた。人々は四~五メートルにも達する積雪を宿命とあきらめ、じっと耐え忍ぶのであった。[…]また新潟県は出稼ぎの多いことでも知られる。[…]米搗き・杜氏・木挽・屋根葺などの『関東出稼ぎ』から角兵衛獅子にいたるまで、実に多様な出稼ぎを送り出した。この多様な出稼ぎの存在は、農民を貧窮化させた『地主王国』の盾の一面ではあったが、他方で長期間、雪に閉ざされた越後の風土がつくりだしたものだったのである。」
 
『眼前小景』「三 珠乗角兵衛獅子」(敬文館、1912、笹川潔)
「人道の上から観ると、何ふも珠乗や角兵衛獅子の類は、残忍なる芸当で有る、それを親子相携へて見物したり喝采するのは、甚だ気の知れ無い沙汰と謂はねばならぬ。
 唯だ訳もなく面白がつて見て居る連中には、咎むべき廉が無いやうで有るけれども、見る子供と見らるゝ子供との間には、一種の社会主義的関係が生ぜずには居られない、少くとも他人の苦痛を娯んで見るといふ不仁の観念が伴はずには居られ無い。」
*旧漢字は現代のものに直しました。
 
『日本伝説叢書 下総の巻』「角兵衛獅子」(日本伝説叢書刊行会、1919年、藤沢衛彦編)
「豊畑村大宇井戸野に、昔、角兵衛といふ百姓かあつたが、その家に名工運慶の作つた木の獅子を持ち傳へてゐた。越後の角兵衛獅子よりは少しく大きやかで、古来より持ち傳ふるものゝ由で、角兵衛所持の獅子なれば、角兵衛獅子とと称へ、極めて奇物であるが、その頃世にもてはやされて、獅子舞の名を専らにしたのは、この角兵衛獅子を以て嚆矢とするといふことである。」
 
『日本民謡論』「角兵衛獅子その他」(万里閣、1940年、藤田徳太郎)
「一、越後の角兵衛獅子は、多分江戸時代初めに、関東の角兵衛獅子を輸入したるものなる事。」
「大體越後は雪國なので越後の人は関東方面へ出稼ぎにやつて参り、関東の民謡を輸入すると共に、これをその國で特有の民謡に醇化し、更に、地方へ輸出すると云ふ傾向があつたやうで、越後は、日本の民謡の大きい仲介しになつてゐることは注意すべきです。[…]角兵衛獅子も、やはり、さうした現象の一つです、何卒御地の方には、この點に留意せられて、じゅぶん研究なされるやうおすゝめ致します。」
 
「新潟県民性を語る」(土質工学会、1987年、池政栄)
「大洪水に遭っての一家離散は、決して珍しいことではない。いたいけな男の子たちが、獅子の子として訓練を受け、江戸の地で演技をしてみせる『角兵衛獅子』などの本場は、やはり洪水の害にしばしば見舞われる川筋の村であった。」
 
『日本民俗芸能辞典』「角兵衛獅子」(第一法規出版株式会社、1976年)
「口上」
「獅子は勇みの技 早速とりはじまり 獅子の頭はぞっくりそろえる 獅子は生かして悪魔祓いとどっと一度に舞い込む 獅子は勢い どっと向うへと追い込むこなたに構えた これで構えた これで構えた形は 雌獅子雄獅子か 中が子獅子 獅子に牡丹か 牡丹に唐獅子 月に叢雲 花に嵐か 踊りはじめは跳んではねましょう」