よびごえ日誌
2019.05.13 【2019】よびごえ日誌 vol.002
2019年度、1年生を含めた新体制の初回稽古が始まりました。
7月7日(日)出演予定の東京都合唱祭の曲が以下に決まったため、まずはそれに向けたパート分けを行いました。
『きまぐれうた』「恋」(みなづきみのり作詩/土田豊貴作曲)
『なみだうた』「雨のあと」(金子みすゞ作詩/信長貴富作曲)
つい数か月前まで混声合唱を行っていたよびごえですが、今年度は女声合唱からのスタートです。
混声合唱には混声合唱の響き、女声合唱には女声合唱の響きがあると個人的には考えており、これは単純に、複数人が集まって声を出し合うだけで成立するものではありません。響きを作るための理論と合唱の歴史的文脈の中で形成されてきた価値観とがポイントになると思われます。
そこで今日は、女声合唱の響きを自分たちなりに整理するためのワークを行いました。
ワークの内容として、まず、3つのグループ(パートごと)に分かれ、じゃんけん等を行いリーダーを決めました。
その後、事前に準備した以下の4曲を順に聞き、その演奏の特徴をグループごとに整理しました。
また、今回選択した2つの時代を考慮に入れ、約30年前と今、その時代ごとの発声や言葉のさばき、音楽の表現などに変化が見られるかどうかを整理しました。
1989年 鹿児島女子高等学校 「いま」
1991年 安積女子高等学校 「聞こえる」
2017年 大妻中野高等学校 「君が君に歌う歌」
2018年 豊島岡女子学園高等学校 「ポジティブ太郎~いつでも始まり~」
時間の都合があるにせよ、たった4曲を聴いただけで時代比較を行うことは強引なのですが、ただし、女声合唱が約30年を経てどのように変化したのか、そしてこれから30年後の女声合唱はどうなっているのだろうか、という問いを得るためにこのワークを行いました。
1989-1991年から2017-2018年に向けて女声合唱はどのように変化したのかについて、学生の意見をカテゴリーごとに整理してみました。
【発声】
・深い響き➡浅い響きになった
・母性➡少女のような声の印象の変化
・息の使い方が変わった
・口の開き方が変わった
・声の明るさ、響かせ方、空間の立体的な響きという観点で変化があった
【表現】
・フレーズの処理の仕方が変わった
・言葉の処理の仕方が変わった
・音の出し方、抜き方が変わった
【合唱の概念】
・歌い手中心の歌う歌➡聞き手中心の”伝える”歌に変わった
・個人での自由➡全体での自由を求める合唱へ変わった
【社会からの要請】
・合唱に求められているものが変化した
上記の他、「作品の質が変わったから求められる声も変わったのではないか」「コンクールの審査員の講評も関係があるのでは」「20年前はkなどの固い子音が誇張されていたけれども、今はhやsなどの柔らかい子音を時間をかけて発音していた」なども指摘が挙がり、これらは、社会や時代の変化と共存しつつ変容してきた合唱文化の存在、またその中で独自に注目された子音の存在を示唆しています。
また、このワークを通して、女声合唱をまとめるためにはアルトの声が重要であることが整理されたり、演奏する作品によってどういう響きを作るのかは選択しても良いのではないかという解釈と表現の間にある問題等も重要な指摘として挙がりました。
今日のワークはそのようなところにいったん帰着し、振り返りの際にもそれぞれの言葉で今日の体験が共有されました。
最後に、もう一度問いをぶり返すのかもしれませんが、女声合唱の響きはなにによって規定されていくのでしょうか。
混声でも男声でもないという意味でその形態の独自性、また、1度、4度、5度、8度という単純な調和の問題に加え、拍子やリズム、和声を内包する旋律の特徴も考慮が必要でしょうし、詩の持つ世界観も無視はできないと思われます。
多様な響かせ方のある女声合唱という形態において、なぜその響きを選択したのか、よびごえのメンバー1人1人が模索しながら7月の本番までには何かそれらしいよりどころを見つけ、それを本番では、お客さんに向かって自信をもって披露してくれると嬉しいです。
「楽譜に書いてあるからこの音を鳴らす」という合唱から、「この音はこんな風にならしてみたい」という合唱をしていきたいですね。