よびごえ日誌


2020.07.09 【2020】よびごえ日誌 vol.007

こんにちは!2年A類音楽選修の伊野綾那です。
先日、Google フォトのアーカイブに、昨年の東京都合唱祭の写真が出てきました!「あれからもう1年が経ったのか…!」と時の流れを感じるとともに、同じ空間で合唱をしていたことが夢のように感じられ、何とも言えない不思議な感覚になりました。
 
さて、今回のテーマは、「『戦争』『死』『差別』といったシビアな作品を通して、どのような学び・体験を提供することができるか?」というものでした。
まずは、それぞれのワークで出た、皆さんの意見を挙げていきます。
 
 
 
【グループワーク】
『しゅうりりえんえん』「ゆうきすいぎん(有機水銀)」
石牟礼道子作詩/荻久保和明作曲
 
①第一印象
・強い怒り、悲しみの強さを感じる
・Fの低音が怖い、シンゴジラを感じる
・オワオワといった意味のない言葉が怖い
・演劇的  
・器楽的に声を使う箇所がある
 
②予測される歌唱技術面での困難箇所
・無調に近く音が細かいため、音取りが大変そう
・細かく記された強弱の変化を忠実に再現すること
・器楽的な部分を、どのような効果を狙っているのかを理解し、演奏に反映させること
・語りの部分の音程、アーティキュレーションのバランス
 
③この作品ならではの体験・学び
・その時代に生きていた人々の目線から水俣病について知る体験
・詩の一人称になりきる体験
・演劇的な歌唱の体験
・自分の演奏と演奏効果についての学び
・自分よりも幼い人が死ぬという疑似体験
 
④この作品を取り扱った先に、合唱団にどのような変化があってほしいか
・合唱作品が人に与える影響の大きさ、それを歌う責任の重さを知ってほしい
・感動などから音楽が生まれるだけではないという実感
「こういった伝えなきゃいけないことを伝えるためにも歌って生まれるのだな」
・感情をあらわに、殻を破る
・水俣病、死、重い内容への考え方が変わる、実感が変わってほしい
 
 
 
【個人ワーク】
『オデコのこいつ』「ゆめ」
蓬莱泰三作詩/三善晃作曲
 
①第一印象
・「shi」の発音というのは、空気がこすれるような不気味な音がする
・怖い(他人事の怖いではなく、自分が何かに煽られているとか助けを求められているような恐怖心)
・怪談を聞かされているかのような異様な不気味さを感じた
・円熟した声で歌われるよりも、あどけない声でこれを歌われた方が怖い
・激しく動いているところも静かなところも、極限の緊張感を感じた
 
②予測される歌唱技術面での困難箇所
・いやな音程・音域での跳躍が多く、綺麗に歌うことが難しい
・テンポ変化、拍子の変化→ピアノと合わせるのも大変そう
・爆発したように強い音が結構出てくる→間違えると喉を壊しそう
・臨時記号で楽譜が書かれている(何か意味が?)
 
③この作品ならではの体験・学び
・世界で起こっている戦争とか紛争とか飢餓を知るきっかけ
・一音も無駄にしない集中力の訓練
・同じ「怖いよ」でも違う表現をする体験
・生きること、死ぬことについて考える
 
④この作品を取り扱った先に、合唱団にどのような変化があってほしいか
・叫びとか恐怖とかを音で表すときのエネルギーを感じてほしい(音楽の可能性、音楽の力)
・旋律やリズムなど、様々な音楽的な要素を、歌詞と結びつけて歌い方を考えるようになってほしい
・自分が発する言葉を見直すきっかけになれば。(何気なく発してしまった悪口や、差別用語など)
・言葉にできない深い学びがあってほしい
・日常での対人関係の変化、などと思うものの、どうしても実際問題を考えると、うすっぺらいと感じてしまう、この曲で何かを学んだとしても実生活でそれが生かされることはあるのだろうか
・今後の人生で誰かを亡くしたときにこの曲を歌い、感情を照らし合わせてみてほしい
 
 
 
今回の勉強会では、ワークを受けて、上の2曲のような音取りが難しい上に内容も重い作品を扱う際の具体的な指導法、指導する上での注意点、それからコンクールの裏事情、感情と音楽について…など、小田さんから様々なお話がありました。一部抜粋してまとめておきます。
 
《指導法》
最初は音取りに専念する。それから、歌詞解釈など掘り下げていく。
➡作品の特性によって指導法は工夫されるべきで、常にベストな方法を問い直す。
 
《指導する上での注意点》
①子どもたちの心のケアを大事に!
…重いテーマに対峙した時、抱えきれない子どももいる。音楽は実感、経験を通して学びをもたらしてくれるが、そのようにして知識伝達的な従来の学習の枠組みを超えていくとどうなるかを考える必要がある。言葉にできないものを共有する。また、子どもたちと共有する情報を丁寧に精査することも必要。
 
②曲の全体像を見失わない。
…強い表現を作ろうとある一部分にフォーカスした練習をするときには、曲全体の世界観を計算しながら、全体像が崩れないようにする。
 
③教育目標を明確に!
…「なぜこの曲をやるのか?」批判もある。内容が重くてもこの作品を扱う理由=この作品がもつ学びを明確にする必要がある。
 
④演劇的な表現はロシアの演劇理論も参考に!
 
⑤誰もが作品から共通の感情を感じるとは限らない!
…特定の解釈(感情)を押し付けてはいけない。一人一人が何を感じたのか、そこから全体の学びを構成していく。
 
以上が勉強会の大まかな活動報告です。いつにも増して濃い学びの時間でした!
 
 
今回の勉強会を通して、つい数週間前、「ゴスペル」を題材にした中学音楽科の授業の指導案を書いたときのことを思い出しました。ゴスペルの歴史をたどっていくと、黒人奴隷の時代にたどり着きます。過酷な労働の中で歌われた労働歌。奴隷たちと同じ境遇を経てきた神と出会いから生まれた黒人霊歌。南北戦争下における黒人霊歌の二重の意味。今も親しまれるAmazing Graceの意味など…。涙を流さずには勉強できませんでした。「この歴史を、その中で生まれた苦しみの中の希望であったゴスペルを子どもたちに伝えたい…!」そう思い、授業の計画や音楽的な指導内容などを様々考えていきました。しかし、いざ指導案を書いてみると、「音楽の授業でここまで深く扱っていいのだろうか?」という迷いが出てきてしまうのです。学びの深さを優先させるべきか、教科としての枠に納めるべきか。重いテーマ、特に歴史的な事実と関わる音楽を教えるとき、この迷いは付きまとうものなのかもしれません。
 
今回、これに対しての新たな視点を得ることができました。
「音楽科だからこそできること、学べることがある」
なるほど!と納得すると同時に、音楽の力・可能性を改めて感じました。言葉では説明できないもの、忘れてはいけないもの、言語・時代を超えたもの…。音楽が伝えてくれるものは、まだまだたくさんありそうです。音楽科ならではの学び、アプローチについて、これからさらに考えていきたいと思います。
 
 
 
長くなってしまいましたが、最後に恒例の記念(?)写真です!
今回の写真は…「美乃里さん、教採がんばってください!!!!!!!!」の図です!
 

 
美乃里さんをはじめ、教採を受けられたしーずーさん、井出さん、もかさん、本当にお疲れさまでした!先輩方がご卒業される前に、また同じ空間で歌える日が、どうかどうか来ますように…!
 
次回のよびごえ日誌は、咲妃にお願いします!お楽しみに!

伊野